パパが3歳のとき知っておきたかったこと

年収は2-3000万円で全然いいんですよ、お金には執着しないタイプなので。

ビルゲイツは行列に並ばないだろうけど、ぼくは並ぶ

 ビルゲイツの総資産は約9兆円だといわれます。9兆、といっても単位が大きくて想像しづらいですが、9兆円とは、3億円の宝くじが生まれてから死ぬまで毎日当たりつづけたぐらいの金額、と言い換えれば少しはリアリティがでてくる気がします。

 はじめてWindowsが発表された’95年を起点とすると、ビルゲイツはおよそ20年でこの資産を築きました。ざっくり、年収は4,500億円(=9兆円÷20年)ということになります。1年間は約9,000時間であり、この間ビルゲイツが人生の半分ほど(年4,500時間)を仕事に捧げていたのならば、彼の時給はちょうど1億円ぐらいだったと計算されます*。

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  なぜぼくがこんな計算をしたかというと、先日ある行列に並んでいるときに暇だったからです。原宿の有名なポップコーン屋さんです。長くなるので詳しいことは省きますが、地方から遊びにやってきた妻の妹のために観光ガイドをした流れ、です。

 既婚男性ならば、この何とも言えない妙な感覚をわかってくれると思いますが、妻の母、および妻の姉妹は、『どんなに面倒でも邪険にはできない二大巨頭』です。ぼくの妻の妹は、そうしたぼくの心理を逆手にとってか、ぼくをまるで『無料の専用はとバス』のようにとことん利用し、都内の観光名所を手際よくまわるよう要求してきました。

 その一環で原宿のポップコーン屋に辿り着いたのですが、週末だったということもあり、列の最後部からはお店が見えないほどの長い行列でした。みんなで並んでいる時間がもったいないから、並びは『バスの運転手』に任せて、そのあいだ私たちは他のところをみてまわるのが得策だよね、どうせForever21に連れて行っても役に立たないわけだし。そんな趣旨のことを妻の妹から、もう少しソフトに言われた次第です。

 ふだんは草原に寝そべるヒツジのように温厚なぼくですが、せっかくの休日にトヨタヴィッツを目が充血するまで運転させられ疲れていたこともあり、この義妹の発言にはさすがにカチンときました。我慢できずに「おいおい、バカ女。おれはな、お前の奴隷じゃないんだよ」とキレそうになりましたが、ここは大人。公共の場であることも踏まえ、「順番が近づいたら電話するからゆっくり見ておいで」とややソフトに返答しておきました。

 そういうわけで、若者のまち原宿で、りゅうちぇる系のたくさんのティーンに混じって、はとバス系のおじさんがひとり並ぶことになりました。最初のうちは、スマホで情報収集をしたり、キンドルで本を読んだりして有意義に時間を潰していたのですが、うしろに並ぶペコちゃん系の女子ふたり組がキャッキャうるさくて気が散ります。

 そして、そのときしみじみ思ったのが、やっぱりビルゲイツとか大物はこんな行列には絶対に並ばないんだろうなあ、ということです。

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 経済学では『機会費用』とよぶ概念です。500円のポップコーンを買うために1時間行列に並ぶとすると、ビルゲイツは1時間はたらく機会を失うことで時給分(=1億円)損をする、と考えます。つまり、ポップコーンを手に入れるために、1億500円を支払ったことになります。

 その一方で、頭がポップコーンみたいな人たちは、行列に並んだとしても、1億円を失ったりせず、代わりに、意味もなくLINEで恋人といちゃつく時間や、意味もなくドンキホーテに行く時間、意味もなくジャスティンビーバーを聴く時間など、そうした機会を失うだけですから、経済的な費用はポップコーン代の500円に限定されます。

 合理的な人ほど、得るものと失うものを天秤にかけて意思決定をするので、得るものの割りに失うものが大きすぎる選択肢は除外されます。ビルゲイツで言えば、彼がポップコーンに1億500円以上の価値を見いださない限り、列には並ばないということです。

 ヴィトンのロゴが入ったポップコーンやダイヤモンド入りのポップコーンならまだしも、原宿のすかすかのキャラメルポップコーンのために貴重な時間を費やすでしょうか?知りませんが、合理的なビルゲイツならば、マックのハンバーガーでも食べてWindows11を作るためにいっちょ働くか、と思うはずです。

 ビルゲイツの例は極端にしても、一般の社畜さんなどに身近なのが、たとえば病院の診療です。ぼくが伝え聞いた話によれば、「38度7分までは微熱」という社畜界の常識があるようですが、これはちょっとしたことで病院に行かず仕事をしろ、ということです。混み混みの病院に行くとぼーっと待っているあいだ働けない、つまり機会費用が大きいのです。その結果、病院の待合室は、ありあまるほどの時間があって失うものが(診察代以外に)ない老人たちで溢れることになります。

 ちなみに、ぼくが伝え聞いた話によれば、「人気ラーメン店には並ばず松屋で済ませろ」という社畜界の常識もあるようですが、これも同様の考えができます。結果として、人気ラーメン店は、ありあまるほどの時間があって失うものが(ラーメン代以外に)ない若者たちで溢れることになります。

 ポップコーンにしろ、病院やラーメンにしろ、老若男女問わず、列に並べば並んだ順にサービスを受けられる、というのは一見まったく疑問の余地のない『平等』なシステムに思えます。がしかし、忙しい人たち、機会費用の大きな人たちは行列に参加することを諦めているわけですから、実質的には、時間に余裕がある人、機会費用が小さい人を優遇しているシステムなのです。

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 そんな経済学の教えを思い出しながら、原宿の行列に並んでいたぼくは、ためしに辺りを見回してみました。やはりビルゲイツらしき人物は並んでいませんでした。どっからどうみてもポップコーンなやつらばかりでした。

 え?ぼく?ぼくは、もちろんビルゲイツには遠くおよばないですが、偽ペコちゃんや偽りゅうちぇるよりは機会費用は大きいはずです。なので、めったにラーメン店などの行列には並びません。しかしそれでも、原宿ではわざわざ周囲に溶けこむようにポップコーン顔をしながら1時間以上並び、甘いだけのチョコポップコーンを手にしました。なぜか?

 義理の妹がインスタにあげる写真を撮るために決まっています。経済学が机上の空論だと批判されるのは、きっと、義理の妹の存在や、週末はとバスおじさんの存在を無視しているからでしょうねฅ(๑◕ω◕๑)ฅ ←ポップコーン顔 

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* 質素な生活で知られるビルゲイツので、使った分のお金は誤差の範囲として無視しています。