パパが3歳のとき知っておきたかったこと

年収は2-3000万円で全然いいんですよ、お金には執着しないタイプなので。

マスク美人という『桜』

 結論からいうと、『マスク美人』は3月上旬に急増します。

 これは、1)花粉対策をする女子と、2)季節の変わり目に風邪予防をする女子の両グループが、この時期にそろってマスク着用を始めるからです。

 また、その様子を見た、3)花粉症ではない&風邪をひきにくいグループの女子たちも、なぜかつられて、あとを追うようにマスクを着けだし、全体のマスク率をグッと引き上げます。したがって、例年3/9〜3/12あたりには、その年のマスク美人たちがひととおり出揃うことになります。

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 パパがマスク美人にうるさいのには、ちゃんとした理由があります。彼女たちが春の到来を告げる重要な存在だからです。

 春の代名詞と言えば、ふつうは桜です。春は出会いと別れの季節。入学式や卒業式に桜は欠かせません。友達と別れて寂しい・・・、新生活がはじまり不安だ・・・。
 そんな後ろ向きな気持ちに蹴りをつけ、いざ前を向こうとするとき、桜はそっと寄り添い、咲いて散る姿を見せることで、人々の気持ちの整理を手助けします。大げさに言えば、桜は、たんに美しいだけでなく、人々に対してある種のカタルシスをもたらすのかもしれません。

 社会人にとっても同じです。春は、年度末・年度初めであり、社会人としてはもっとも動きのある季節です。会社や個人の一年の総決算、社会人〇年目を終え年次が上がる、新人の入社、昇進、人事異動、新規プロジェクトの起ち上げ・・・など、重要なイベントは基本的に春に集中します。
 そこで、自分の気持ちになんらかの区切りをつける必要があり、ふつうは3月下旬の桜の花見がそれを後押しします。ふだん花見をするのが当たり前すぎて気付きませんが、花見という定例の儀式があるからこそ、「一年お疲れ様」とゴールテープを切り、また来年度のマラソンへ向けて気持ちを切り替えることができるのです。

 ところが、たいへん困ったことに、ある程度の専属コミット型会社員になると、ほぼ四六時中オフィスにいるため、桜を直接見る機会がありません。専属契約を無視して強引に見に行くこともできるのですが、それがバレて叱られるのがこわいのであまり冒険もしません。仕事の前には仕事をして、仕事のあとには仕事をするのがコミット型会社員です。

 もちろん、社内で卓上カレンダーを見て3月のページになれば、「春になった」と頭では理解できます。しかし、そこに春の「体験」が一切伴わないと、気持ちの切り替えがうまくいかず、どうしても冬を引きずります。
 紅白歌合戦や年越しそばのない年末はイマイチですし、花火大会のない・蚊に刺されない夏休みも、これまたイマイチです。やはり、「この歌手、毎年同じ歌うたってね?」とか「あぁ、もう!蚊がうざったいなー」とかいった小さな体験を積み重ねてこそ、その季節の重みを感じ、自分なりに季節を「消化」するのです。

 それでは、桜という分かりやすい春を失ったコミット社員は、どうやって春の到来を実感するのでしょうか?
 マスク美人の急増を目撃することによって、です。冒頭で述べたように、マスク美人が急増する時期は安定しており、少なくともサクラ前線なんかの動きよりはずっと読みやすいです。そして、どんな会社員も通勤だけはします(お泊まりが基本なら、それはもう家畜です)。電車やバスで、マスク美人たちの前線を目にし、そこではじめて、「ああ、ようやく長い冬が終わったのだなぁ。。これから、春かあ!」と心の底から実感し、ひとり静かに気持ちの整理をつけることができるのです。

 パパの試算だと、マスク美人10人のうち、本物の美人はたったの2人だけです。ですが、春を体験するという意味においては、マスク美人の大群を目撃することこそが重要なのであり、マスクの下の真実は極めてどうでもよい話です。
 それに気にしたところで、「恐れ入りますが、マスク取ってもらえますか?」と頼むわけににもいかず、また、大都会東京で同じマスク美人を再び目にする可能性も低いでしょう。マスク美人は一期一会です。

 マスク美人という「桜」は決して散りません。咲きほこったまま永遠に、サラリーマンの胸の中に保存されるのです。